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自閉症の治療(療育)

 
 自閉症の治療は「療育(りょういく)」を中心に進める
 療育では「方法」を教える
 療育の基本は行動療法
 治療教育(療育)の中心は「TEACCH(ティーチ)プログラム」
 自閉症の相談をするときは
 療育は通院で対応
 自閉症の治療には薬物は用いない
 入院が必要な場合もある
 



自閉症の治療は「療育(りょういく)」を中心に進める
 自閉症がどのようにして発症するのかは、その原因はわかっていません。いいかえると、子どもに生まれつきある脳の機能的な障害を正常な状態にすることはできません。

 しかし、自閉症の子どもの機能障害は、脳のすべてに起こっているわけではありません。活用できる機能を生かして、障害のある機能を補っていくことは可能です。

 その子どもに適した方法を見つけて、子どもがそれを実行できるようにくり返し実践させることで、できないこともできるようになっていきます。

 このように、自閉症の子どもの生活上の困難を軽減させて、障害があっても不自由なく暮らしていけるようにしていく教育的援助を「療育(りょういく)」(治療教育の略)と言います。自閉症の子どもの対応はこの療育を中心に行っていきます。


療育では「方法」を教える
 自閉症の子どもの大きな問題点は、社会的なルールがわからず、その場に適した行動が身につかないということです。

 自閉症の子どもは脳の機能に障害があるため、社会的なルールを理解することが困難です。それを訓練によって理解させることにも無理があります。

 しかし、ルールがわからないなりにも、このような場面ではこのような行動をしなければならないということを習得することはできます。「この場面ではこれをやる」ということをマニュアル化して、それを子どもに覚えさせて、習得させることは可能です。

 ルールもわからず、形だけでは意味がないと思われるかもしれませんが、それは自閉症でない人の考え方です。マニュアル化したものを機械的に実行させるだけでも、それで生活が過ごしやすくなり、社会に適応できるなら、自閉症の子どもにとっては大きなメリットになります。


療育の基本は行動療法
 自閉症の子どもは感情のコントロールをするのが苦手です。急に大声をあげたり、何もしていないのに泣いてしまうことがあります。

 また、叱られたときにはパニックを起こして、自分をたたくこともあります。こうした感情の起伏が、危険な行動につながることもあります。


 こうした行動を少しでも減らし、予防をするために行うのが「行動療法」です。行動療法では、適切なほめ方と叱り方を実践することで、子どもの行動習慣をよい方向に変えていきます。


治療教育(療育)の中心は「TEACCH(ティーチ)プログラム」
 自閉症の治療の中心になるのは、「TEACCH」という治療教育法です。現在、世界的にもっともさかんに取り入れられているもので、1960年代にアメリカのノースカロライナ州で生まれた治療教育法です。

 実績が世界中で認められていて、日本でも自閉症教育の中心になっています。自閉症児は、ものごとを認識する方法が他の人と異なり、社会に入っていけないことがあります。TEACCHは、理解のギャップを埋めて、子どもの理解を助けるための教育をします。

 家族と医師が協力して、子どもに必要なサポートを模索して、様子を見ながら実践します。子どもを一般的な枠組みに当てはめず、たった一人の子として、性格や特徴を尊重して育てます。

 TEACCHは療育の手段として、さまざまな実践方法が確立され、たくさんの子どもに役立っています。

(TEACCHの4つの観点)
子どもを個人としてみる
TEACCHは一般に認められている方法ですが、人によっては具体的な方法に違いがあります。また、自閉症児を持つ両親の暮らしは人それぞれ異なります。ひとりひとりにあった方法を選び、調整していくことが大切です。

両親と専門家が協力する
両者の協力関係なしには、療育は成り立ちません。親が子どもの様子を見守ってトラブルを報告し、専門家がそれに対応を指示します。また、第3者が関係することで、親が孤立して悩むことも避けられます。

子どもの人生全体を見る
目の前の問題にとらわれず、将来を考えることが大切です。親が全面的な支援をしなくても自立して生きていけるよう、先をみすえた指導をします。

子どもを受け入れ歩みよる
子どもの力を否定せず、どのような特徴があるのか理解します。その特徴を受け入れて、療育者である大人が子どもにあわせて歩みよります。



自閉症の相談をするときは
 自閉症について専門家に相談をしたいときには。医療機関をはじめとする、さまざまな窓口を利用できます。

 自閉症は、痛みや発作がなく、急を要することはほとんどおきません。そのため、医療機関を訪れるきっかけが少なく、家族で子どもの行動を心配しながらも、専門的な対応をとっていないことがよくあります。

 治療はいつからでも始められますが、早めに対応すれば改善も早くなります。一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。

医療機関での相談
 診察や確かな助言を受けられます。児童精神科が専門になりますが、かかりつけの医師に相談してもいいでしょう。
かかりつけの小児科
児童精神科
総合病院の小児科へ

教育機関での相談
学校や幼稚園の先生とコミュニケーションが取れている場合は相談してみるのもいいでしょう。
保育園の保育士
幼稚園の先生
学校の先生
保健の先生

その他の機関
地域の機関にも窓口があります。児童福祉士や心理士が相談に応じています。

児童相談所
自閉症・発達障害支援センター
保健センター


療育は通院で対応
 自閉症への療育は、自宅や保育園、保育園、日常生活の中での療養が中心です。療育の目的が社会への適応ですので、できるだけ家族とともに一般的な社会生活をおくることが望ましいとされています。

 そのため、医療機関には通院で利用します。通院では医師の指示を仰いだり、療養経過を確認するときに訪れます。毎日通ったり、入院をすることは原則としてありません。


自閉症の治療には薬は用いない
 自閉症の治療には原則として薬は用いません。現在までに、自閉症の原因治療薬として開発され、広く認められているものはありません。

 それは自閉症の原因である脳の機能障害について、詳しいことがわかっていないためです。脳のどこにどのような作用をする薬があれば、特性を軽くすることができるのか、いまも研究が続いています。子どもに対する薬物療法は、その後の成長に影響を与える可能性があるため、慎重に行われます。

 但し、発達障害の一種であるAD/HD(注意欠陥/多動性障害)には薬を服用することもあります。気分障害や不安障害などがあって、治療教育することが難しい場合に、特性を抑えるために薬が使われることがあります。



入院が必要な場合もある
 家庭で対応しきれない危険な行動や、命にかかわる行動が現れているときは、一時的に入院を考えることもあります。それは感情のコントロールがきかず、自身を傷つけたり、ほかの子に乱暴をしてしまう場合で、適切な対応ができないときには、入院して専門的な治療をうけるようになります。

 また、食事へのこだわりが強すぎて偏食したり、トイレや入浴を覚えられず、生活がなりたたない場合にも、それらの施設に入って生活習慣の習得をすることが選択肢のひとつになります。

 入院は当面の危険を回避するために行われます。入院をきっかけとして、生活習慣を変え、危険な行動をなくすことが目的で、できるだけ早く退院します。長期入院してしまうと。社会生活にもどることが困難になるので、退院後の生活を考慮して入院はできるかぎり短期間にします。