自閉症の特徴


 自閉症とは
 コミュニケーションが取れない  感情をコントロールできない
 ひとつのことに極端にこだわる  言葉の使い方を理解できない
 自閉症は「心の病気」ではなく「脳の障害」  自閉症スペクトラム


自閉症とは

 自閉症とは、子どもが脳の機能不全によって、言葉の使い方や感情表現、認知能力などをうまく身につけられない状態のことです。自閉症の子どもは、話し言葉や感情表現を身につけることが苦手です。そのため「対人関係がうまくいかない」「コミュニケーションがうまくとれない」「強いこだわりを持つ」といった特徴が強く現れます。

 「自閉症」という言葉から、自分の殻に閉じこもる「心の病気」を想像する人がいますが、それは間違いです。自閉症は心の病気ではなく、生まれた時からの脳の「発達障害」のひとつです。発症率は1000人に1〜2人といわれています。くわしい原因は不明ですが、母親のおなかの中にいるときに、脳になんらかの障害がおこるためと考えられています。親の愛情不足や育て方、ストレスや精神的な問題が原因でおこる病気ではありません。

 自閉症の疑いをもったときに大切なのは、なにが原因か、だれが悪かったのか悩むことではなく、子どものために何ができるか、過去よりも未来を見据えることです。子どもになにを期待するかよりも、この子をどれだけ幸せにしてやれるかと積極的に考えることが大切です。

 発達障害の特性は、子どもの心や体の成長とともに変化していきます。病気やケガのように「こうすれば治る」という対処法はありませんが、本人にとって暮しやすい環境をつくり、本人の適応力を育てることで症状を軽くすることが子どものためになります。


コミュニケーションが取れない

 コミュニケーション能力の障害は、年齢によってさまざまな形で現れます。赤ちゃんのころは高度なコミュニケーションを必要としないため、症状は目立ちませんが、成長するにつれてさまざまな問題が生じてきます。

 子どもは成長するにつれ、対人関係や社会性を身につけていきます。それは視線をあわせて人の表情を読んだり、人と喜びを分かち合ったりして学んでいきます。

 しかし、自閉症の子どもは、赤ちゃんの頃から人への関心が少なく、母親があやしてもあまり反応がありません。友達と遊ぶ年齢になっても、友達に関心を示さず、ひとりで遊んだり、集団のルールや相手に合わせて行動ができないために、性格に問題があるのでは、と周囲から誤解されている子どもも少なくありません。

 必死に子育てをしているのになついてくれない、視線を合わせようとしないなど、子どもが愛情をこばんでいるように思うことが多い場合など、ときおり不機嫌になるのは当たり前ですが、それが続く場合は自閉症のサインです。

 また「人と目を合わせない」「両親に愛着を示さない」「抱き上げると嫌がる」「呼びかけてもふりむかない」「他の子と遊ばない」などは自閉症の子どもの行動の特徴です。


感情をコントロールできない

 コミュニケーションをするためには、言葉だけでなく、身振り手振りや表情、声のトーンなど、言葉意外の要素も必要です。しかし、自閉症の子どもはそれらの非言語的な表現を理解することが苦手です。また、感情をコントロールすることも苦手です。

 自閉症の子どもは感情表現が極端です。かんしゃくを起こしたり、唐突に泣き出すことがあるいっぽうで、まったく表情を変えず、静かにしていることもあります。おだやかな時と、激しいときの中間が欠けているような印象です。

 そういった行動を見て「キレやすい子」とか「かんしゃくもち」などと決め付けるのではなく、本人も困っているのだと理解してあげることが大切です。その結果、自分の感情を爆発させてしまったり、相手の感情を無視した行動をとり、トラブルを起こしてしまいます。

 感情をコントロールできないことの原因は、性格の問題でも、心のトラブルでもありません。情緒障害が生じているためです。自閉症の子どもの対応としては、性格と考えずに、少しずつなれさせるようにすることが大切です。もっとも良くないのは、気難しい子、怒りっぽい子として対応することです。一般論で当てはめず考えないようにすることが大切です。

 また、自閉症の子どもは、人ごみのざわめきや、動物のにおいなど、ほかの人がさほど違和感と感じないものごとに、恐怖や不安を感じる場合があります。どんなことを嫌がっているか理解して、無理させずに、少しずつ慣れさせていくことで対応していきましょう。


ひとつのことに極端にこだわる

 自閉症の子どもには、同じ遊びや行動にこだわる特徴があります。遊びの対象は、おもちゃや遊具とはかぎりません。ほかの子どもがあまり興味をもたない数字や漢字、マーク、家具、お酒のラベルなどに興味を示します。それらを独自の価値観で並べてみたり、動かしてみたりします。興味の対象が、せまく限られているのも特徴です。また同じ服を着たがったり、道順や手順へのこだわりももちます。ほかの人には興味がないことに思えても、本人には意味があり、少しでも乱されるといやがって泣きわめくこともあります。

 また、子ども向けのおもちゃた道具ではなく、イスやドアノブ、小石など、遊び道具でないものに興味を示して、いつまでも飽きずにあそんでいることもあります。本人にしかわからない、強いこだわりを持ちます。また「商品のラベルを好む」「回転する家具で遊びたがる」「ドアを何度も開け閉めする」「扇風機をじっとみている」「小石を並べるのが好き」なども自閉症の子どもの行動の特徴です。

 しかし、このようなこだわりの中には、記憶力やおもちゃの整理をする力など、生活に役に立つことがたくさんあります。それらの行動を、勉強や仕事に生かしていきます。それと同時に、慣れ親しんだものに執着する考え方は少しずつ直します。新しい体験をさけていては、いつまでも自立できません。恐怖や不安を感じにくい環境をつくり、子どもの成長をサポートしていくようにします。


言葉の使い方を理解できない

 自閉症の子どもは、言葉の遅れが目立ちます。多くの場合は言葉の理解が不十分で、語句もあまり増えません、個人差がありますが、2〜3歳になっても両親を呼ばないとか、言葉を覚えない場合が多くあります。話をすることも、言葉の意味を理解することも苦手とします。

 言葉を覚えても、相手の言葉をおうむ返しにいう、一方的に話す、知っていることを何度も質問する、といった傾向があり、相手や場面にあわせた会話が苦手です。

 「自分から話すことがほとんどない」「お母さん、ママと言わない」「聞かせた言葉をおうむ返しに言う」「犬、車など単語を理解しない」「物事の説明が出来ない」などが自閉症の子どもの言葉の特徴です。

 自閉症の子どもには、ただひたすらに言葉だけを覚えさせようと躍起になっても、子どもを苦しめるだけです。絵や図など、言葉以外の要素を使いながら、少しずつ言葉も覚えていくようにします。また、自閉症の子どもは、耳で聞く情報よりも、文字や図形などの視覚情報のほうが認知しやすい子が多くいます。


自閉症は「心の病気」ではなく「脳の障害」

 自閉症は、かつては「心の病気」と考えられていましたが、現在では、脳の一部になんらかの機能障害があるのが原因とされています。最近では脳の研究が進み、感情のコントロールにかかわる前頭葉を中心に、脳全体のシステムになんらかの障害があると考えられています。母親の胎内にいるときに障害が起きる、染色体の異常によるなどさまざまな説がありますが、いずれもまだ研究段階です。

 自閉症は多くの場合、その障害に気づくのは3〜5歳ごろです。子どもが外の世界から刺激を受けながら、運動機能を発達させていく幼児期にならなければ発達の遅れや障害がはっきりとわからないからです。また、1歳以前で気づかれることもありますが、その場合は専門家の診断によることがほとんどです。

 かつて、自閉症は「心の病気」と考えられていたときには、カウンセリングがさかんに行われていましたが、現代では、脳の機能障害に対応する治療や、子どもが社会で生活に入っていけるよう、環境をととのえ、行動を教える教育プログラムが取り入れられています。


自閉症スペクトラム

 自閉症スペクトラムとは、一見すると自閉症とは似た別の傷害のようにとらえることもできますが、そうではありません。自閉症のことを指します。自閉症スペクトラムとは自閉症という発達障害を「連続体」としてとらえる概念です。連続体とははっきりとした境界線のない枠組みのことです。

 自閉症はアスペルガー症候群やAD/HD(注意欠陥/多動性障害)など、ほかの発達障害と重なる部分が多く、区別が容易にはできませんので、連続体とかんがえられています。また、自閉症は、周囲の対応ひとつで症状が重くなったり、軽くなったりするために、診断基準にあてはめて考えると無理が生じることがあります。

「特性があるかないか」「自閉症であるかないか」という両極端な考え方をするのではなく、診断名にとらわれず、日々成長していく子どもの様子を見守って、その都度、柔軟に適切な対応をしていくことが求められます。