齢を重ねてくると、他人の名前を度忘れしたり、昼食に食べたものを思い出せなかったり･･･いわゆる｢物忘れ｣は記憶力や集中力、注意力の低下から起こります。これは単なる脳の老化が原因です。

　一方、認知症では、認識したり、記憶したり、考えたり、判断する力が障害を受けて、社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。人の名前どころか、今日のお昼に何を食べたのか、お昼ごはんを食べたか食べていないかさえも思い出せなくなってしまうのです。

　認知症の多くは「アルツハイマー型認知症」と「脳血管性認知症」です。認知症は、脳が病的に障害されておこります。その原因となる病気は、頭蓋内の病気によるもの、身体の病気によるものなどたくさんあります。

■脳血管性認知症の特徴

　脳血管障害で起こる認知症は脳血栓や脳梗塞で、脳の血管が詰まったり、破れたりすることが原因で起こります。障害を受けた部分の脳の働きが悪くなりますから、記憶などに関する部分が障害を受けると認知症になります。

　脳血管障害で起きる認知症は発作を予防することによって悪化を防ぐことができます。発作を予防するには、生活習慣病に気をつけることです。高血圧や糖尿病があると動脈硬化に拍車がかかって、脳梗塞を引き起こしやすくなります。

■老化それとも認知症、その見分け方は

認知症は、はじめのうちは歳のせいによる、もの忘れとの区別がつきにくい病気です。大きな違いの一つとして、認知症は記憶のすべてを忘れてしまうのに対し、歳のせいによる、もの忘れは記憶の一部を忘れているという点です。

○老化による物忘れの特徴

　顔は分かるのに名前が出てこないとか、テレビでよく見るタレントの名前を思い出せないとか、別の部屋に行って、何をしに来たのか分からなくなり、元の部屋に戻って考えたら思い出す、漢字を忘れて辞書を引く、物をどこに置いたか忘れた、昼ご飯に何を食べたか思い出さない等々、知っているのにその記憶が取りだしにくいのは加齢に伴う物忘れです。ただ、すっと出てこないだけで、ヒントを与えると思い出したりする場合は、記憶機能は壊れていない証拠で、これは老化による物忘れのことが多い。

○認知症によるもの忘れの特徴

　認知症の物忘れには特徴があります。たとえば、一般の人は何を食べたか忘れることがありますが、食事をとったかどうかを忘れることはまずありません。誰とたべたか、どこで食べたか、など経験したことの一部は忘れても、食事をしたこと自体は忘れないものです。もし経験したことそのものを忘れるようになったら、認知症の心配があります。

■認知症の初期症状

物の置き忘れや、しまい忘れ、など加齢によるもの忘れが徐々に進んでいくために、発症が気づかれにくいのが特徴です。記憶力が徐々に低下します。日付がわからなくなり、金銭管理が苦手になります。失敗も増えて、不安感からいらだったり、落ち込んだりします。この時期では日常生活に支障をきたすことはありません。

　認知症（アルツハイマー病）を発病した場合、自分自身を自覚している期間はおよそ10年程度と言われます。 初期の認知症は物忘れで始まることが多いのですが、稀に、物忘れよりも、怒りっぽくなる、とか性格の異常から始まることもあり、周りの人も認知症だと気づかないことも多い。

　最も初期の症状は学習能力が落ちて、新しい事を覚えていられない。論理的な思考力がなくなることです。目標に対してプランを立てたり、スケジュールを立てたりすることが出来なくなり、家事や仕事の段取りが上手く出来なくなるのがその徴候です。例えば、お皿をうまく片づけられない、調理の手順を間違える、冷蔵庫が空っぽになったり、逆に、同じ物を重複して買ってきたりするなどもその例です。

認知症（アルツハイマー病）の初期症状には次のような兆候があります。
□しまい忘れや置忘れが多くなる。
□日付や時刻、居場所の感覚が不正確になる。
□計算を間違えることが多くなる。

□捜し物が多くなる。

□鍋を火にかけたことを忘れてよく焦がす。

□蛇口やガス栓を締め忘れる。

□仕事で人に会う約束や、会合や通院の予定を忘れてしまう。

□仕事の段取りや、計画を立てられなくなってしまう。

□物盗られ妄想などの精神症状を伴うことがある。

□着物をうまくたためない。

□飲み薬の管理が出来ない。

□身だしなみがだらしなくなり、おしゃれをしなくなる。

□駅で切符が買えない。

□いつもの道を間違える。

□同じことを何度も言うようになる。

□他人との会話が上手く行かない。

□好きな事でも関心がなくなる。

□テレビドラマの複雑な内容を理解できない。

□ささいなことで怒るようになる。

■認知症の中期症状

　加齢によるもの忘れとは異なる病的な記憶障害が際立つようになります。今日が何日か、何曜日か、住所等を忘れる。帰り道を忘れる、どこにいるか分からなくなるなど、自分自身が置かれている状況などが正しく認識できない状態になります。失語、失行、失認なども生じ、日常生活も家族の介助なしには行えなくなります。

　少し前のことを忘れる。聞いたばかりの事を忘れる。 電話をかける等、自分が主体的に関わったことを忘れてしまい、人から指摘されても思い出せない。昼ご飯を食べた等々、体験した事を忘れてしまう、数分前のことを忘れる。同じ事を何度も聞いたり、質問したり、自分が話したことを忘れ、何度も同じ話をしたりします。

　物忘れが徐々に激しくなるが、自分ではあまり意識しない。認知症の場合は一部の記憶消失ではなく、関連する事を含めてごそっと記憶が抜け落ちるという特徴があります。記憶がすっかり抜け落ちてしまうので、他人がそのことを指摘しても思い出せません。

■認知症の後期症状

　言葉によるコミュニケーションもとれなくなります。会話はもはや成立しません。人物の見当識障害のために家族が誰であるかわからなくなります。感情もほとんど失われ、無欲・無動状態になります。身体的にも四肢の硬直が現れ、寝たきりの状態になり、全面的な介助が必要になります。